胞状奇胎とは?~患者様からの質問~
胞状奇胎とは?~患者様からの質問~
「妊娠したけど、妊娠ホルモンの値が高く、不正出血の量が多いため、胞状奇胎を疑われています。胞状奇胎って何ですか?」
との質問を頂きましたので、お答えしていきたいと思います。
胞状奇胎について
胞状奇胎とは、絨毛性疾患の一つです。
両親の遺伝子の異常ではなく、受精の異常によって生じます。
受精の異常で胎盤絨毛における栄養膜細胞の異常増殖と間質の浮腫により、絨毛が水腫状になります。
エコーで房状の粒がみえる事から、昔は「ぶどう子」とも呼ばれていました。
また、高齢妊娠や胞状奇胎の既往歴のある方、流産経験がある女性に胞状奇胎が好発しやすいと言われています。
近年の少子化に伴い、胞状奇胎の発生数は減少しています。
発生機序で分類
「全胞状奇胎」と「部分胞状奇胎」
胞状奇胎は、発生機序や侵入の程度によって分類されます。
まず、発生機序よって「全胞状奇胎」と「部分胞状奇胎」の2つに分かれます。
全胞状奇胎は、(ゲノム異常等による)核がない卵子に1つもしくは2つの精子が受精して起こります。
全てが栄養膜細胞の異常増殖や絨毛間質の浮腫のため、胎児成分は存在しません。
正常な妊娠では、妊娠が成立すると栄養膜細胞からhCG(ヒト絨毛ゴナドトロピン)というホルモンを分泌します。
しかし、胞状奇胎の場合、栄養膜細胞が異常増殖するため、正常の妊娠よりもhCG値が高い数値を示します。
部分胞状奇胎は、正常な1つの卵子に、2つの精子が受精して起こります。
この場合、胎児成分は存在し、部分的に異常な絨毛が認められます。
そのため、まれに正常な部分が赤ちゃんとして成長して分娩に至るケースがあります。
侵入深度で分類
「侵入全奇体」と「侵入部分奇胎」
次に胞状奇胎の深さの程度によって分類されます。
全胞状奇胎または部分胞状奇胎の一部が、子宮筋層あるいは筋層の血管内へ侵入・転移した状態を侵入奇胎と呼びます。
「侵入全奇体」と「侵入部分奇胎」に分けられます。
胞状奇胎の手術後6ヶ月以内に発生しやすく、全胞状奇胎の10~20%、部分胞状奇胎の2~4%に侵入奇胎が認められます。
侵入奇胎自体は、がんのような悪性腫瘍ではありませんが、「異常細胞が増殖すること」、「肺や膣に転移する場合もあること」、「治療に抗がん剤を使用すること」から、一種の前がん状態と捉えることができます。
速やかに治療を受け、その後はhCG値を基準値以下に保つために、定期的に通院と検査をしっかり行えば、予後良好な疾患です。
所見から確定診断までの流れ
①自覚・他覚所見
自覚所見として、妊娠初期より不正性器出血(90%)、妊娠悪阻症状(30~40%)が見られます。
他覚所見は、子宮は妊娠週数に比較してやわらかいことが多いです。
医療が発達し、早期発見が可能になったため、上記の症状を感じる前に診断されることが増えてきています。
②診断
正常妊娠よりも、尿中・血中hCG値が高値になります。
また、体内で成長しているのが胎児なのか、胞状奇胎なのかを確認するため、超音波検査を行います。
超音波検査では、子宮内にぶどうのような影(ルテイン嚢胞等)が見られます。
超音波検査のみでは流産との鑑別が困難な場合もあるので、hCG値の測定も必須です。
これらの条件に当てはまったら、胞状奇胎を疑い、早急に子宮内容除去術を行います。
③確定診断
子宮内容除去術後に採取した組織を顕微鏡で調べ、ここで胞状奇胎だと診断を確定します。
診断が困難な場合、免疫組織学的検査や遺伝子検査を行うこともあります。
手術後の管理が大切!
10%~20%で侵入奇体や絨毛癌などの絨毛性腫瘍を発症する場合があるからです。
絨毛性腫瘍の早期発見に努めるため、手術後は子宮内に胞状奇胎が残ってないか確認し、定期的にhCG値や基礎体温を測定します。
管理の指標として、手術後のhCGが基準値(カットオフ値)以下になるまでの管理を「1次管理」といいます。
カットオフ値以下になってからを「2次管理」といい、3~4年経過観察をします。
手術後、血中hCG値が5週間で1000mIU/mL、8週間で100mIU/mL、24週間でカットオフ値以下になれば、経過順調型(Ⅰ型)といいます。
経過非順調型(Ⅱ型)の場合、子宮内に胞状奇胎の組織が残っていないか、もしくは侵入奇胎を疑い、再度検査し最適な治療を行います。
hCGのカットオフ値以下の状況が約3~6ヶ月以上続けば、不妊治療を再開できると言われています。
病院によって、カットオフ値以下を1年と定めているところもあります。
hCGがカットオフ値以下になると、生理が再開されて妊娠可能になります。
しかし、妊娠によるhCG値の上昇なのか、侵入奇胎や子宮内奇胎組織の遺残によるhCG値の上昇なのかを判断するのは難しいため、しっかり避妊期間を設け、先生とよく相談した上で妊活を行いましょう。
最後に
妊娠したと思った矢先に、胞状奇胎と診断され、驚きやどうしたらいいいのかと不安に感じたり、悲しかったりとショックを受けるかと思います。
しかし、妊娠が進むにつれて胞状奇胎も進み、手術のリスクも上がります。
そのため、早急な子宮内容除去術とその後の管理が重要になります。
妊活は時間との勝負でもありますが、将来を見据えて安全を最優先しましょう。
参考文献:病気がみえる
(文責:岩佐ゆかり、竹永百華)
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