笑と治癒力

笑いと治癒力
ノーマン・カズンズ
松田銑(訳)
笑いと治癒力の本の表紙

この本は米山榮先生主催の米山塾で紹介された1冊。
プラシーボについて興味深い内容が書かれている。
「鍼灸の臨床においても、医療においてもプラシーボを切り離すことはできない」
「プラシーボをあかんことのように捉える風潮があるが、プラシーボとは何かを理解することから始めなさい」

10年以上前に、米山榮先生よりそのようなことから紹介された1冊。

今自分が向き合っている課題と向き合う中で、この1冊が力になってくれるのではという思いでこの本を手に取る。

ご本人の膠原病の体験

1964年にご自身が患った関節の炎症性の疾患。
この時に現代の医療では思ったように回復をしない。

ご自身が米有数の書評・評論誌「サタデー・レビュー」の編集長を務めるような方で、一つ疑問に思えば徹底して調べあげていく。

本の中でも記載されているが、その調べた「医療に対する疑問」を主治医のウイリアム・ヒッツィグ博士に問うことを許された。

これは
「患者の立場に身を置いて考えることができる人を主治医持った」

現在の医療の中で、診療時間が短くその信頼関係をどれだけ築くことができるのか、医療体制、医療費の問題からもかなり理想を追求することは難しい中で、自由診療の私たちには、医療の中で解消されない「疑問」「不安」など鍼灸院に持って来院されるため、

ここは本当に大切にしたい心構え。

「痛みの原因となる病気がある」かつ「不安や恐怖」を患者さんが持っている
その時に、患者さんの自覚する痛みは増える。

これは、同じような病気の状態。
例えば、ガンの末期の状態で病院にいる場合に、痛みのために鎮痛剤がかなりの量必要。
しかし、この方が在宅でケアを受けることができると鎮痛剤の量が減る。

これは、ごく限られた方に起きる現象ではなく。
医療者であれば知っているぐらいありふれた日常の現象。

ここで注目したいのは、その患者さんの病気の病態や状況は同じ。
変わるのは環境だけ。

その環境を変えることによって、
日常の住み慣れた環境。
ご家族がいる状況。

痛みの自覚が減る。
決して、「このガンの状況で自宅に戻れば治ります」というものではなく。
痛みのメカニズムとして、「悪さ=痛み」ではなく、痛みには不安・恐怖という感情によっても痛みの感じる量が増えている。

ご本人の膠原病の体験

この不安のところに笑いという要素を入れることで、痛みはどう変化するのか。
このノーマン・カズンズの体験は「入院病棟で映写機を使ってどっきりのVTRを見る」

「10分間腹を抱えて笑う」
そうすると、痛みで眠れなかった状態が「2時間痛みのない状態が続く」

「笑い」によって痛みが和らぐという作者本人の1症例でしかないことは、ご本人が実は一番わかっていて、ここから彼は様々な医師に意見を求めたり、自分の体験と同じように他の患者に変化があるのか。

この変化は、「プラシーボ」という言葉で片付けられてしまうが、「プラシーボ」とは何なのか。
この本の中で記載されている。

神秘的なプラシーボ

第2章では「神秘的なプラシーボ」というタイトルで始まる。
この章で自分が興味深いと感じたのは、

アフリカの呪術医を医師と一緒に訪ねた体験。
その医師と前日の晩餐で会食をしている際に

「現地の住民はこの病院があるおかげで、呪術医の超自然信仰に頼らずともすむ幸運なことだ」

というような言葉を発したのがきっかけとなり、呪術医が何をしているのか見学をしにいく。

1.ある患者に対しては、薬草を茶色の紙袋に包んでその用い方を指示する

2.別なある患者に対しては、薬草を渡さずに、あたりに響き渡る大声で呪文を唱えた。

3.別な患者に向かっては低い声で話して、病院に行くように促した。

 

この時に、呪術医とは、これまで伝統的な治療をただ行うものではなく。
それぞれの患者さんの病の状態によって、関わり方も処方箋も変えているということ。

この内容を読むと、実は医療の中での鍼灸師の役割、鍼灸の役割という視点でみると実は同じようなことがいえる。
患者さんの病に対して必要な際には鍼灸を私たちは行うが、「本当にその方に必要なことは何か?」という問いに鍼灸なのかどうか。

これは、当院の場合には自分たちに立てている問いです。

もっと他の方法はないのか。
必要な医療はないのか。
鍼灸をするとすればどういった方法が良いのか。

「私の常得意の中には、呪術医がよこしてくれた人たちがいる」

「だからわたしは呪術医の悪口は決して言わない」

そういえばいつからか、他の医療者の悪口をいうことはなくなった。
何か医療を提供する側にも事情がある。
もちろんそんなことは、患者さんに関係ないといえば関係のないこともあるが、
色んな苦労をしてきたので、それぞれのステージで色んな課題はやはりある。
そこにコロナは色んなこれまでの成功体験を壊していったので、みんながもがいている。
社会として適応するにはもう少し時間が必要だろうなぁ。

話を戻します。

「呪術医が治療に成功するのは、同業の私たちすべてが成功するのと同じ理由による」

「どの患者も自分自身の医者を持っている」

「患者たちはその真実を知らずにやってくる」

「私たちがその各人の中に住んでいる医者を首尾よく働かせることができたら、めでたし、めでたし」

田中はり灸療院でも、同じようなことが言える。
私たちはプロだ。だからこそ、自分たちのできる範囲を認識して、鍼灸にできることはもちろん。
鍼灸師として何ができるのか。

私たちもやはり、患者さんの中にある自然治癒力を最大化するという表現の中に、
「患者さんの中に住んでいる医者を首尾よく働かせる」という言葉と重なる点がある。

その他の章も患者さんの視点で読んでも、治療者の視点で読んでも学ぶことが多いので、ぜひいつか読んでみてください。

私自身の課せられた宿題

今回は、「笑いと治癒力」という本を読み返すことにしたが、実はこれまで色んな先生から教わり良書と言われる本を必要なところだけ読んだり、全く読まないストックだけしている本であったり、その当時読んだが消化する能力がなかったり。

少しずつ経験を積んでいく中で見えてくる課題の違い。
仲間と一緒に働くことで見えてくる課題。

まだまだ色んな宿題が残っているので、一つずつ丁寧に向き合っていきたい。

どんな狙いでこの宿題を渡してくださったのか。
答えのない問いと向き合いながら、心と記憶と対話を続けています。

文責:遠藤彰宏

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