診断プロセスを学びどう表現するか
診断プロセスを学び
どう表現するか
2025年4月8日の院内研修は、「診断プロセス」
診断とは,「患者に観察される現象(症状・徴 候・検査所見)の源を医学知識に照らし,正しく解釈する作業」である.
この正しい診断に至るプロセスというのは、実際には鍼灸臨床の教育現場ではなかなか上手に表現されていない。
鍼灸学校では国家試験を合格するための知識のインプットと情報整理が行われる。
また鍼灸学校卒業後に、研修などに参加してもある先生の臨床の方法の断片を知ることはできるが、あくまでも「ある疾患、症状で困っている方への治療はこういうことを私はしています。」というのは学ぶことができるが、その推論に至るまで(鍼灸師に診断権はないため診断という言葉は控える)を学べる機会は少ない。
診断に至る過程は経験に基づいて、ある情報が特定の疾患の可能性をどれくらい高めるのかを、意識的にも無意識的にも評価しています。
この情報処理と確率評価の過程が、まるで中身の見えない箱(ブラックボックス)の中で行われている。
臨床医の頭の中では、複数の要素が複雑に絡み合って進行するため、その結果だけで名医かどうか判断されるが大切なフレームとしてこの鍼灸院では全員が持っておく必要があると思い共有しました。
よくある思考パターンはこうです。
ある検査(兆候)が陽性なら疾患がある。
ある検査(兆候)が陰性なら疾患がない。
それを陽性、陰性でチャート式にしていくとこのような図を描くこともできます。
「ある」「なし」だけで診断に至るのであれば非常に勘弁で良いですよね。
しかし実際の臨床はそうはいかない。
確率的思考を診断に結びつける
先ほどの図と違い今度は、「疾患あり」と「疾患なし」の間には0%から100%までグラデーションになっている。
疾患の可能性の変化をグラデーションを用いて視覚的に表現する試みは、この確率的思考をより直感的に理解する助けとなります。
これは無意識化には実際の日常でも人は行なっていたりします。
仮に今日ランチに出かけようと思うが、頭の中では近くのお店に行きたいという理由から「ラーメン」か「カレー」の2択で迷っている。
その二つは、同じ確率で迷っているので「5分5分」と表現するとこのバーを使うと、ラーメンを50%の位置、カレーを50%の位置で見積もることができる。
一緒に傍楽く仲間がその二つで迷っていることを相談すると、「値段」「現在地からお店までの時間」「提供までの時間」「混み具合」「味」「Googleの口コミ」
これらの情報によって、バーの中をラーメンの可能性が右に寄ったり、左に寄ったり。カレーが右に寄ったり、左に寄ったり。
どちらも期待値が高まって「ラーメン80%」「カレー80%」結局甲乙つけ難いって迷ってみたり。
日常でも新しい情報をどのように受け止め、それに基づいて決断、行動の可能性をどう変化しているのかという、外部からは直接見ることができない、内的な認知プロセスをこのように示すことができる。
このように日常の思考のブラックボックスを表現できるなら、診断に至る過程も表現できるはずである。
検査前確率をどう見積もるか
このグラフのどの位置に最初の点を置くかは非常に重要になってきます。
これは最初の点として「検査前確率」という言葉を使ったりします。
検査前確率の想定は、医師自身の蓄積した臨床経験の量や、働いている医療施設の性格・規模、診ている患者の違いなどによって異なってきます。
勤務する病院の種類によっても検査前確率が異なる。開業医なのか。総合病院なのか。救急病院なのか。
都市部なのか、農村部なのか、島なのか。
鍼灸院で考えても、都市部と市街地、山間部などどこにあるかで「腹痛」の患者さんがきた時の「ある病気」の可能性は大きく変わる。
「腰痛」でも全く異なる。
「一般に医師は患者の年齢,性別,人種,主訴,ときに身体所見や検査データから初期診断仮説を形成する」とされており、簡単な現病歴と身体所見で診断の88%はついてしまうという報告もあるように、これらのデータを統合する必要があるが、大切な出発点を決めるのが検査前確率。
検査には特性があり
診断に至る影響力が異なる
次に、診断的に至るためには「検査」が選択され、実施されます。
検査の選択は、鑑別疾患の可能性を考慮し、「最も可能性の高い疾患」、「可能性のある疾患」、「生命予後に関わる除外すべき疾患」に対して行われます。
そして、検査の特性が、検査前確率を検査後確率へと更新する上で重要な役割を果たします。
この際の指標として「感度」、「特異度」、そして「尤度比」といった指標が用いられますが、今回の研修ではそれぞれを説明することは省きました。
尤度比は、「疾患がある患者の中でその所見を有する確率」を「疾患を持たない患者の中でその所見を有する確率」で割ったものであり、検査結果が疾患の可能性をどれくらい高めるか(陽性尤度比)または下げるか(陰性尤度比)を示す指標です。
ここを詳細にしていくと嫌になります。
同じ出発点の黒丸を検査前確率とすると、検査A、検査B、検査C、検査Dはそれぞれ特性が異なる。
この特性は「検査結果が疾患の可能性をどれくらい高めるか(陽性尤度比)または下げるか(陰性尤度比)」
影響力の大きさが異なるため、矢印の長さがその影響力といえます。
検査後確率
最初に見積もった検査前確率から検査を行った結果が「検査後確率」です。
この検査後確率は、臨床的な判断や意思決定を行う上で非常に重要な情報となります。
検査の結果を、検査前の疾患の可能性と検査の特性を踏まえて評価することで、より正確な診断に近づき、適切な治療方針を立てることが可能になります。
まとめ
このような方法を用いることで、
「検査前確率をどのように見積もったのか」「その根拠は何か」
「検査の特性」をどのように考えたのか。
その検査は確実に実施、評価できたのか。
「検査後確率」についてどのように考え、どう臨床行動に移すのか。
それを検証し続けることで、臨床能力は検証し、改善点もわかるため向上をすることができます。
そして。診断ツールが持つ潜在力や限界を把握し、それを繰り返し再評価や修正し続ける必要性を共有しながら、一緒に学び続けることができたら嬉しいです。
(文責:遠藤彰宏)