ARTにおける内膜の菲薄化とPRP療法
体外受精(ART)における内膜の菲薄化とPRP療法について
PRP療法は、難治性皮膚潰瘍や褥瘡、歯科では歯槽・歯肉の再生、スポーツ障害だと筋肉・靭帯などの組織の早期修復と疼痛の軽減を主とした治療で使われてきました。
大リーグで活躍している大谷翔平選手もこの治療法をしていることは有名です
現在、生殖医療の分野では不妊に焦点を当てた「PRP療法」が注目されています。
ここでは、「PRP療法」と「妊娠」についてお伝えします。
PRP療法とは
PRP(Platelet Rich Plasma)療法=多血小板血漿療法(たけっしょうばんけっしょうりょうほう)では、自分自身の血液を採取し、その血液を遠心分離して得られた血小板をより濃縮した血漿成分を使用します。
下の図は遠心分離した血液です。
上から
血小板が少ない血漿層(PPP) |
血小板が多い血漿層(PRP) |
赤血球層(RBC) |
この3層に分かれたうちの「血小板が多い血漿層(PRP)」を用いることで、血小板の機能を活用する再生医療です。
新しい治療方法と出会う時に、皆さんが心配する副作用です。
PRP療法の特徴として用いる血液は「自身の血液」という点が大きく、自身の血液であるためアレルギー反応等の心配が少なく、国内外でも重篤な副作用は報告されていません。
血小板の機能の一つとして、血小板から放出される「成長因子等(PDGF・TGF-β・VEGF・EGF等)の成分」や「サイトカイン」により、傷ついた「組織の修復」や新生血管、炎症を癒す細胞の増殖による「炎症症状の軽減促進」、皮膚や骨・軟骨・血管を作る「コラーゲンの産生」を促す作用があります。
自分が持っている能力をさらに引き出して、「機能を高める」
その上で、これまでと期待する結果を導き出したい。
不妊とPRP療法とは
不妊の分野においていは、何かしらの原因で子宮内膜が十分な厚さにならない女性にPRP投与することで、子宮内膜における細胞増殖、血管新生を良好にする。
対象は、
「子宮内膜が厚くならないために移植ができない方」
「移植はできるが、着床、妊娠維持という結果には至らず、改善する方法として子宮内膜が考えられるケース」
PRP療法を行うことにより血小板に含まれる成長因子によって、子宮内膜環境の改善が促されることによる妊娠が期待できます。
「子宮内膜が厚くなる」
「胚移植の成功率が向上する」
これを目指してPRP療法が行われています。
「PRP療法」は、1周期あたり原則2回投与になります。
ご自身の前腕から静脈血を20ml採取し、遠心分離させる機械で血漿部分を抽出、調製したPRP(約1ml)を子宮内に注入します。
投与の目安としては、月経10日目頃と12日目頃となりますが、詳しい投与の日程は医師との相談の上、決定されます。
子宮内膜が薄い
=妊娠率が下がる
子宮内膜は妊娠必要な要素の一つであり、適切な子宮内膜の成長は、着床と妊娠の成立には重要な要素です。
薄い子宮内膜は、生殖補助医療(ART)における妊娠率の低下とも関連しています。
不妊治療(特にARTの方)では、子宮内膜の成長具合によっては移植が延期になったり、キャンセルになることがあります。
薄い子宮内膜の原因としては以下のものが挙げられています。
クロミフェン 49.3%(51/104人) |
子宮内容除去術 23.3%(24/104) |
原因不明 19.7.%(20/104人) |
子宮腺筋症 7.7%(8/104) |
(『「薄い子宮内膜に対する対応」杉野法広:診断と治療社,2020.vol.87.』より)
妊娠率を求めるのであれば、
凍結融解胚移植を行う際には、子宮内膜の厚さが「7mm以上」、新鮮胚移殖では「8mm以上」が理想的と報告されています。
子宮内膜が上記の厚さに満たない時に移殖をすると、継続妊娠率は低下することがわかっています。
不妊治療におけるPRP療法
(実際の研究論文より)
1)「自家多血小板血漿による薄い子宮内膜の治療:パイロット研究」
概要:子宮内膜は妊娠の主な要因の1つです。生殖補助医療(ART)治療中、子宮内膜の成長が不十分なため、一部のサイクルがキャンセルされます。この研究は、薄い子宮内膜の治療における多血小板血漿(PRP)の有効性を評価するために実施されました。凍結融解胚移植(FET)サイクルで子宮内膜の成長が不十分であった10人の患者を研究に採用しました。PRPの子宮内注入を行った。子宮内膜の厚さを評価した。化学的および臨床的妊娠が報告されました。すべての患者で、PRPと胚移植が行われた後、子宮内膜の厚さが増加しました。
5人の患者が妊娠していた。この研究によると、PRPは子宮内膜が薄い患者の子宮内膜の成長に効果的だったようです。
子宮内膜の成長が不十分であった女性10人に対して、凍結融解胚移植周期にPRPの子宮内注入を2回行い、子宮内膜の厚さの評価を行った。
そのうち、4人は子宮内容除去術の既往歴有り(アッシャーマン症候群、子宮筋腫)。
↓
全ての女性で7mm以上の子宮内膜の厚さへ増加が見られましたが、厚さが7mm以上になるためには2回目の注入が必要でした。
そのうちの5人の女性が妊娠し、その後4人が妊娠継続に至りました。
この研究結果から、PRPは子宮内膜が薄い患者の子宮内膜の成長に効果的だと考えられます。
2)「自家多血小板血漿は子宮内膜の厚さを拡大し、凍結融解胚移植サイクル中の妊娠率を改善できますか?ランダム化臨床試験」
対象)ホルモン補充療法(HRT)での凍結融解胚移植で子宮内膜反応が不良(子宮内膜の厚さ<7mm)な女性83人が参加しました。
比較対象群)
①HRTのみ実施(43/83人)
介入群)
②HRTに加えて、その周期の月経13日目に0.5〜1ccのPRP療法を実施(40/83人)
2つのグループに分け、子宮内膜の厚さと化学的・臨床的、及び進行中の妊娠率の比較を行いました。
↓
(結果)
子宮内膜の厚さは、①HRTのみ実施群よりも②HRT+PRP実施群で、8.67±0.64mmと大幅に増加しました。(p=0.001)
着床率と周期ごとの臨床妊娠率は、②HRT+PRP実施群で有意に上がりました。(それぞれp=0.002と0.044)
結論、PRPは子宮内膜の成長を改善し、子宮内膜が薄い女性の妊娠転帰を改善するのに効果的である可能性があると言えます。
3)反復着床障害における着床および妊娠に対する自家多血小板血漿の影響
反復着床障害(RIF)の女性の妊娠率の改善におけるPRPの有効性を目的に、胚盤胞移植周期にHRTと0.5mlのPRPの子宮内注入(移植の48時間前)を行いました。
対象の女性は20人で平均年齢33.4±5.7歳でした。対象者全員に子宮腔の異常なく、そのうち7人は子宮鏡手術の既往歴有りました。
↓
18人が妊娠し、その後、早期流産と胞状奇胎妊以外の16人は妊娠継続となりました。
結論、PRPは反復着床障害の女性の妊娠転帰の改善に効果的な可能性があると言えます。
4)生殖医療における多血小板血漿(PRP)のナラティブレビュー
『Sharara FIら. J Assist Reprod Genet. 2021.DOI:10.1007/s10815-021-02146-9』
生殖医療における自己PRP療法の効果に関する既存の文献をレビューし、現在の研究を総括し、さらに追加の研究の必要性を評価することを目的に、PubMed、MEDLINE、CINAHLPlusを利用して文献検索を行い、生殖医療におけるPRP療法の使用に焦点を当てた研究を特定しました。
論文は「①薄い子宮内膜へのPRP ②低卵巣予備能へのPRP ③反復着床不全へのPRP 3つに分けて検索されています。
(結果)
①子宮内膜が薄い女性では、「PRP療法後の子宮内膜の厚さの増加と化学的妊娠率および臨床的妊娠率の増加を示している」文献があります。
②卵巣予備能が低い女性では、卵巣内PRP注入療法により、抗ミューラー管ホルモン(AMH)濃度が上昇する。その結果、FSHも低下。臨床的妊娠および出生率が上昇する傾向があります。
③着床不全を繰り返す女性にも臨床的及び生児出産率が上昇する傾向があります。
しかし、大規模なランダム化比較試験の行われていないことに加えて、PRP製剤の標準化の欠如は、これからの研究で対処する必要があります。
決定的な大規模はランダム化比較試験が行われるまで、PRPの使用は実験的なものとみなされるべきであるといえます。
5)多血小板血漿(PRP)による着床改善
子宮内膜が薄い、または反復着床不全の女性63人(平均40.6歳)に胚移植周期に2回のPRP投与を行いました。
約半数に手術既往があり、流産による子宮内容除去術が多くを占めていました。
↓
PRP投与前の平均子宮内膜の厚さが6.0±1.9mmに対して、1回目投与の48時間後の平均子宮内膜の厚さは7.5±2.46mmで有意に増加しました。
妊娠率は63例中18例(28.6%)であり、有害事象と思われるものは子宮内膜症性嚢胞合併症の子宮内膜炎(1例)でした。
しかし、内膜肥厚が観察されない女性でも妊娠例が見られたため、PRP療法による子宮内膜の増厚と着床率向上への影響は各々確立しているといえます。
以上の論文から、PRP投与により子宮内膜の薄さの改善や着床率・妊娠率の向上に変化をもたらすことができるのではないかと思われます。
また、子宮内膜の厚さに変化がなかった女性でも妊娠反応があることから、子宮内膜が十分に厚くなることと、着床率・妊娠率の増加は別々に起こっていると言われています。
最後に、、
まだ大規模な臨床研究の報告はなく、ここ数年で取り入れ始めた技術なため出産までの追跡調査数が十分ではない、という現状があります。
また、PRP療法を実施するためには厳しい申請認可が必要なため、実施できる病院はまだまだ少ないのが現状です。
福岡では、アイブイエフ詠田クリニック、蔵元ウイメンズクリニック、高木病院が既にPRP療法を実施しており、古賀文敏ウイメンズクリニックでは、自己血漿由来成分濃縮物(PFC-FD)を行っています。
当院に来院された方の中にもPRPを投与し胚移植に臨む方が多くはないですが、いらっしゃいます。勿論、無事妊娠継続し卒業された方も。
しかし、福岡で実施している病院は早くて去年の春からのため、出産まではまだは追えていません。
新しい情報が出たときには随時更新していきたいと思います。
(文責:竹永百華)
参考文献:
Int J ReprodBiomed. 2016.10:14(10):625-628.
Sharara FIら. J Assist Reprod Genet. 2021.DOI:10.1007/s10815-021-02146-9
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