メンタルヘルス鍼灸
(うつ病・適応障害・双極性障害・不安障害)

日本のうつ病患者は近年増加傾向にあります。
コロナ禍において、患者負担はますます増加しているのが現状です。

社会の負担に目を向けても、自殺とうつ病による経済損失は年間2.7兆円と報告され、自殺の2割はうつ病などの気分障害が原因であり、うつ病は日本の健康障害の第4位とされています。

一方で、うつ病患者さんの5人に3人は医療機関を受診していないことが分かっており、鍼灸にメンタルヘルスを求める患者も少なくありません。

これまで鍼灸の専門学校、大学での教育カリキュラムでは精神医学を学べる機会はありませんでした。

今から2年前に小坂知世が「ここちめいど」の米倉まな先生と出会い。

一緒に全日本鍼灸学会で発表のお手伝いをさせていただきながら,

うつ病に対する鍼灸治療を福岡でどうやって実施していくかを模索してきました。

学会発表を通じて、2020年2月5日東洋医学ホントのチカラ「冬のお悩み“一挙解決SP」にもご出演された「精神科領域の鍼灸治療」特にうつ病、双極性障害、不安障害をご専門とされている松浦悠人先生(東京有明医療大学 保健医療学部 鍼灸学科 助教)とも出会いご教示いただきながらうつ病に対する鍼灸治療を開始しました。

鍼灸治療の大きな特徴として、
1)治療時間が長い
2)身体に直接触れる
3)現代医学的な視点だけではなく、東洋医学的な視点でも診られる

その特徴を活かしながら、皆さんの健康に寄与したいと考えています。

うつ病はまだまだ原因はわかっていない

うつ病は、こんなに多くの方が患っているにも関わらず、原因を特定するには至っていないのが現状です。
そのため、原因に対するお薬を開発することも難しい。

有力な仮説としては
「モノアミン」
「視床下部ー下垂体ー副腎皮質」(HPA系)
「炎症性サイトカイン」があります。

モノアミン仮説

モノアミンとは精神活動に影響を与える神経物質のことを指します。

モノアミンは「ドーパミン」「ノルアドレナリン」「セロトニン」の3つがあります。
それぞれ相互に作用しながら正常な精神活動を行なっている。

このモノアミンが低下すると、互いに影響しながら「精神活動」を低下させる。

うつ病患者ではシナプス間隙でのモノアミンが減少

シナプス間隙ではモノアミンの絶対量が減っている。
これによってうつ病になっている。
モノアミン仮説はこれまで主流でしたが否定的な意見も出てきています。
モノアミンが減っているだけではなく、受容体側も変化していることで症状が出ているという「受容体側の説」も登場しています。

 

うつ状態とうつ病の違い

「うつ状態」は、この円のように非常に広い。
「うつ状態」は、抑うつ気分が強くなっている状態。
誰もが経験する可能性を持っていること。日常生活の中で、あれが原因で今の状態があると原因が明らかである。
その原因について、「それなら落ち込んでも仕方がない」(了解可能)というのがうつ状態の特徴です。

「失恋をしたから落ち込んでいる」
「永遠の別れ」
「会社でのストレス」など

適応障害は、明確な心因的なストレスが原因となるため、このうつ状態の中に含まれます。

うつ病


中央に描いた水色の縁は、すごく狭い範囲のうつ病で「古典的うつ病」と呼びます。

古典的うつ病の原因は「脳」にあるという考えがあります。
原因不明の「うつ病」を何度も繰り返す。
なぜそのように落ち込むのかわからない(了解できない)
という特徴を持っています。


現在行われている方法として、DSM-5を診断基準に「うつ病」を診断します。
この時、「古典的うつ病」との違いとして、原因を問わない。
症状の数や程度で診断を行うことが特徴です。

「うつ」という言葉の中に、簡単な図にしただけでも大きな枠の違いが存在します。
そのため、診断する医師の概念によって病名が容易に変わることがわかります。

「とても広い意味で捉える」
「うつ状態なのか」「広義のうつ病」なのか

「とても狭い意味で捉える」
「狭義のうつ病以外はうつではない」など

DSM-5

「DSM-5」の「DSM」はアメリカ精神医学会が出版している、精神疾患の診断基準・診断分類です。正式名称は「精神疾患の診断・統計マニュアル(Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders)」といい、その頭文字を略してDSMと呼びます。

このDSMは熟練した医師が用いる診断ツールであり、一般の人がDSMの診断基準を見て、自己診断することはできません。
そのため、当院でもDSMを用いて鍼灸師が診断行為を行うことはありません。

 

精神医療

人間の精神的側面を対象とする医学分野のこと。
精神の「異常」「不健康」を対象に予防や診療等を行う。

治療の対象が目に見えないものが多い。
「異常」の原因は様々で、まだわかっていないことも多い。
身体的側面、心理・社会的側面など幅広い領域と接点がある

他の病気と違って、検査で結果が出るものが少ないという特徴があります。
この検査で異常があれば、Aという疾患という診断方法ではなく。

過去のご自身を正常とした場合に、現在は「異常」、「不健康」としたり
社会活動の変化などで判断するため、ある人にとっては「正常」、ある人にとっては「異常」ということが起こり得ます。

鍼灸院が治療できる範囲
治療できない範囲

ここで大切になってくるのが、現代医療も、鍼灸治療も万能ではありません。
私たちが鍼灸治療を行う上で大切にしていることは、症状や病気を「治すこと」と同じだけ、私たちが治療できない方(より専門の治療を必要としている方)を見極めることです。

「個々の患者さんに合わせて柔軟に判断をしなければいけない」という姿勢と
「どこかで線引きをしなければ、治療機会を逸してしまう」という葛藤を私たちは持っています。

現在の世の中のうつ病の30%の方しか病院を受診していない、という報告があります。
「軽症のうつに精神科的な治療を開始できた方が経過が良い」ため、身体症状を有している段階で鍼灸院に受診した場合に、うつ病が考えられる場合には、適切な医療機関と連携をする必要があります。

また、鍼灸院で治療できる範囲外として大切にしている基準は

1)自殺念慮・自傷行為のあるもの
2)他の医学的疾患による抑うつ障害
3)不安性の苦痛を伴うもの
4)混合性の特徴を伴うもの
5)精神病性の特徴を伴うもの

このような場合には、専門医での適切な治療が必要と考えています。

「日本うつ病学会治療ガイドライン Ⅱ.大うつ病性障害」
(最新版:2016年7月31日) ※2019年7月24日 序文改訂

うつ病の臨床症状

初期症状 重度
空虚感 抑うつ気分 絶望感
楽しくない 興味の消失 喜びの消失
おっくう 食欲減退 体重減少
中途覚醒 不眠 夜が怖い
疲れが抜けない 疲労感 動けない
自分はダメだ 罪責感 罪業妄想
ミスが増える 集中力低下 思考制止・焦燥
楽になりたい 希死念慮 計画・行動

うつ病の経過と鍼灸の時期

うつ病にはそれぞれ段階として
「初期」1−3ヶ月
「急性期」3-6ヶ月
「回復期」6-12ヶ月
「再発予防期」と
発症からの初期は、しっかり脳を休ませることが大切な時期ですので、焦らずにしっかり休む。
鍼灸治療を開始するタイミングでは、発症8ヶ月頃の復職の準備に入る時期から開始したいです。
復職のタイミングはうつ病の少しだけ症状が出る方が多いので、その時期をしっかり鍼灸治療を導入して調整する。
また、再発予防として、残遺症状を軽減させておくことは再発予防に大切なため、ここをしっかり鍼灸治療でケアを行う。

このように鍼灸治療はうつ病に万能ではなく、発症からの時期によって鍼灸の介入時期を考慮していきます。

鍼灸治療を行う上で
その他に注意していること

不安性の苦痛の注意症状

「自分がコントロール不能になる不安」
「集中できない」
「はりつめた感じ」
「落ち着かない」
「恐ろしいことが起きそうな予感」

この5つのうち「2つ以上が当てはまる方」「上記の症状のうち当てはまるものは1個もしくは0個」
この症状の数によって鍼灸治療の効果が出やすい、出にくいの目安にすることが可能です。

2つ以上の方は効き難い傾向にあるため、うつ病だけではなく不安症が

混合性の場合も注意

混合性というのは、「うつ病」気分が落ち込んでいる抑うつ気分状態でありながら同時に気分高揚も同時に伴っている。
焦燥感、攻撃性、易怒感など「過剰なエネルギー」を伴う。
また買い物・ギャンブルなどでの乱費を含めた過活動性がみられる。
この時期は、気分の抑うつ症状として「死にたい」と思った時に、過活動性が同時にあるため自殺を計画、実行できてしまう。
このWEBではご本人が情報を求めているというよりもご家族の方が鍼灸治療に興味を持たれているケースがあるため、あえて注意事項を共有する意味で書かせていただきました。

医学的に説明困難な症状

「機能性身体症候群」「身体症状症」「うつ/不安」という症状はそれぞれ重なりあっているエリアが存在する。

このグラフ心療内科のプライマリ・ケアにおける初心患者330名のうつ病実態調査。
self-rating depression scale(SDS)45以上を示した患者161名の初診診療科を調査したものです。
『三木治:心身医学42(9)586,2002』

このように、精神科、心療内科を初心時に受診できた患者さんは約10%ほどしかいない。
その他の患者さんは内科を中心に他の診療科を受診しているため、診断までに時間がかかっている現状が示唆されます。

『三木治:身体症状からみたうつ病,2007』

各病院で初診時に診断された際の診断名が上記で、「消化器症状」「自律神経失調症」「月経異常」など鍼灸院でも普段よく来院される症状が並んでいます。この後、三木治先生のところを受診していることを考えると原因不明の多愁訴一つの概念として「機能性身体症候群」Functional Somatic Syndrome(FSS):症状の訴えや障害の程度が確認できる組織障害の程度に比して大きい」という特徴を持つ症候群

FSSの主な疾患として
「慢性腰痛」
「過敏性腸症候群」
「慢性骨盤痛」
「機能性ディスペプシア」
「月経前症候群」
「咽喉頭異常感」
「間質性膀胱炎」
「非心原胸痛」
「線維筋痛症」など

「機能性身体症候群」(FSS)の病態
中枢性感作

「中枢性感作」は聞き慣れない言葉だと思います。
痛みなどの刺激に繰り返し暴露されることによって中枢神経の感受性が変化した状態のことを言います。

中枢感作の要因は様々で、末梢からの疼痛刺激の持続、外傷や感染症、慢性の心理ストレス・トラウマ、睡眠障害などによって、脊髄・脳内局所の微細な炎症が影響していることが報告されています。